真珠の思い出
2014年 09月 06日
シーロムビレッジの静かな午後にヨーロピアンな銀髪の女性のお客様がいらっしゃいました。
白人の年齢をあてるのは難しいけれど、50歳よりは上かしら?と思わせる落ち着きの方でした。
静かにぐるりと店内をご覧になられて、、、、
ふと気が付くとお耳には大きなバロック真珠のイヤリングが揺れていました。
これは紛れも無く弊社の製品、、、、でも、、、似たものもありますし、お客様に見覚えもなかったし、、と、特に声をかけないでおりました。
でも確かにうちの真珠!
何故、そう思ったかともうしますと、特大のバロック真珠で色もつやも飛び切りに良かったですし、形にも見覚えがありました。
しかし、その真珠をお買い上げになったのは確か、、、、、
その方を私はとてもよく覚えているのです。
ほんの4-5ヶ月前のことです。
ある日、ヨーロピアンな雰囲気で背の高い銀髪の女性がSheenに入っていらっしゃいました。
その方を見たときの第一印象は”貴族みたい!”、、、すでに老人といってよいくらいの落ち着きの方でしたが、すらっとした背にオーガンジーのような薄いワンピースを着ていらっしゃりそのワンピースの色と同系色の帽子をかぶっていらっしゃいました。
その姿がとても上品で、そして美しかったのです。
お店にはいってくるなり迷わずバロック真珠の120cmのネックレスを手にとられて御試着。 とても気に入られてお揃いにと一際大きなバロックのイヤリングをお選びになられて即決で御購入くださいました。
そのパールが本当によくお似合いでシルバーの髪の毛とのハーモニーがなんともリッチで、おもわず見とれるほどでした。
その方はバンコクでビジネスをされている息子さんを訪ねていらっしゃるというお話をされたのを昨日のことのように覚えています。
”うちの息子がW.......という学校のオーナーでバンコクに住んでいるのよ。”というような会話ではじまりひとしきり世間話をしました。
そんなわけで、その真珠の似合う上品なお客様のことはよく覚えているのです、
そして、今日の午後にお見えになった女性の耳にはそのときの特大バロック真珠と大変にそっくりのイヤリングが揺れていたのです。
その方はさっと店内を1周なさって、5-6種類のイヤリングをぱぱぱっと選ばれて御試着なさることになりました。
さて、御試着の段階になって着けていらっしゃるイヤリングを外されました。
私の視線はそのイヤリングに、、、、
ハッ!あのときのイヤリング、、、でも違う方、、
お客様はさささっとすばやくお好みの、、、真珠ではなくゴールドのイヤリングをお選びになられて”この色どうかしら?”と私に尋ねました。
さあ、そこで初めて会話がはじまりお客様とうちとけて話すことができました。 お客様に声をかけるタイミングというのはとても難しくて、”うるさい”と感じられないように、それでいて”無視”していると思われないように見守るというスタンスをとるようにしているのですが、お話が始まるとそれはいつも楽しくジュエリーについて語り合ってしまいます。
さて、気になっていたことを聞こうかな???と思っていたその時です。
”このイヤリングは先日このお店で買ったのよ!”とおっしゃったのです。
ああ、やっぱり、、と私は思いましたがそれ以上は聞けません すると、、
”私の母が来て買ったのよ。 母がこのお店のことをとても気に入っていて私に場所を教えてくれたの”
とおっしゃいました。
”私はお母様のことはとても良く覚えています。 お母様はその真珠がとてもよくお似合いですよね。 お母様からいただいたのですか?”と私は尋ねました。
すると
”母は先日突然になくなったのです。 亡くなる前日に”私はもう88だから疲れたわ、、そろそろ逝くわ”と冗談を言って笑っていたのだけど、その翌日に亡くなってしまったの。 悲しいわ” と涙ぐまれてしまいました。
私は言葉に困ってしまいましたが”88歳はとても長生きで、きっと幸せな人生だったのでしょうね”と言いました。 優雅で上品な方はきっと眠るように亡くなられたに違いない、と勝手に想像してしまったからです。
さて、お客様としばらくお母様の思い出話をして懐かしいことなどを伺う午後となりました。
最後は素晴らしい笑顔で”このお店は母の好きなお店だから私もまた来るわね!いいかしら?”とおっしゃってお店を後になさいました。 そして”これから弟に会いに行くのよ。 弟はW....という会社をやっていてバンコクにすんでいるのよ”ともおっしゃいました。
悲しい知らせではありましたが、こうして尋ねてきてくださってお話してくださって本当に有り難くまた嬉しく思う午後となりました。
バロック真珠がとりもってくれたお客様とのご縁ですね。 あの真珠のイヤリングもネックレスもいずれあのお客様のお子様に受け継がれて長く使い続けられるのだ、と思うとジュエリーを作る側も背筋が伸びる思いです。 あらためて本物のジュエリーの持つ魔法、永遠に残る本物の力に係わっていられてよかった、と思うのでした。
故人のご冥福をこころよりお祈り申し上げます。
それでは!